民有三患(民に三患有り)(「墨子」)
また訪問者が一桁になりましたので、少しだけ個人情報を明かしてみましょう。
わたしは、実は、一日に一つのことしかできません。今日は一つだけシゴトしたので疲れました。日頃は、何も仕事しないと疲れないので、何もしていません。

これがあると遊んで暮らせるという・・・が、どこにあるのであろうか。
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むかし、ある思想家が言った。
民有三患。
民に三患有り。
人民には三つの悩み事があるのだ。
何を「三患」というか。
飢者不得食、寒者不得衣、労者不得息。三者民之巨患也。
飢うる者の食を得ず、寒(こご)ゆる者の衣を得ず、労(つか)るる者の息(いこ)うを得ず。三者は民の巨患なり。
餓えた者が食べ物を得られないこと。凍えている者が着る物を得られないこと。そして、疲労困憊した者が休息を得られないこと。この三つが人民の大きな悩みなのだ。
なんとか解決したいですね。高度経済成長で衣・食は足りたから、あとは休息だ。
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と、ここまでなら、協力したいところなんですが、続きがあります。
然即当為之撞巨鐘、撃鳴鼓、弾琴瑟、吹竽笙而揚干戚、民衣食之財、将安可得乎。即我以為未必然也。
然るに即ち、これがために巨鐘を撞き、鳴鼓を撃ち、琴瑟を弾じ、竽笙を吹きて干戚を揚げるが当(ごと)きも、民の衣食の財、はた安(いづく)にか得べけんや。即ち我以ていまだ必ずしも然らずと為す。
「干」は「盾」、「戚」は「まさかり」。「干戚を揚げる」のは、盾とまさかりを持って舞い踊ること。紀元前の原始の舞踊の姿が表されています。
そこで三つの悩みから解放されるために、大きな鐘を撞こう。音の出る太鼓を叩こう。琴やおおごとを弾こう。縦笛・横笛を吹こう。盾とまさかりを持って舞踊しよう。そうして、人民のための着る物と食べる物を生み出そう・・・としても生み出せるでしょうか。わたしはどうもそれでは生み出せないと思いますよ。
と言い出しました。
衣食は生み出せない、と言っておいて、意図的に休息のことについてはすっとボケだ。盾とまさかりを持って豪雄の者などが「うほほ」「ほーい」とか踊り始めたら、みんな「わははは、いいぞ」と盛り上がって日頃の疲れも吹っ飛ぶでしょう。少なくとも昭和のオトコ社会では。
いやいや、君ら、楽しようとしてはいかんぞ。
意舎此。
意(そもそも)これを舎(お)かんか。
まあ、それはそれで置いといて、だ。
今有大国即攻小国、有大家即伐小家、強劫弱、衆暴寡、詐欺愚、貴傲賤、寇乱盗賊並興不可禁止也。
今、大国の小国を攻むる有り、大家の小家を伐つ有り、強は弱を劫(おびや)かし、衆は寡を暴し、詐は愚を欺き、貴は賤に傲り、寇乱盗賊並び興りて禁止すべからざるなり。
現代の世の中はどうですか。大きな国家は小さな国家を攻撃する。大きな氏族は小さな氏族を侵略する。強者は弱者を劫略し、多数派は少数派を暴行し、うそつきは愚か者を騙し、身分の高い者は低い者を虐げる。集団強盗や反乱軍が並び起こって止めることができない。
と、治安問題を持ち出しました。
然即当為之撞巨鐘、撃鳴鼓、弾琴瑟、吹竽笙而揚干戚、天下之乱也、将安可得而治与。即我未必然也。
然るに即ち、これがために巨鐘を撞き、鳴鼓を撃ち、琴瑟を弾じ、竽笙を吹きて干戚を揚げるが当(ごと)きも、天下の乱るるや、はた安(いづく)にか得て治むべけんや。即ち我いまだ必ずしも然らずとせず。
そこで、治安を取り戻すために、大きな鐘を撞こう。音の出る太鼓を叩こう。琴やおおごとを弾こう。縦笛・横笛を吹こう。盾とまさかりを持って舞踊しよう。そうしたところで、天下の混乱は治めることができるでしょうか。わたしはどうも治まらないと思います。
そこで、
子墨子曰、姑嘗厚措斂乎万民、以為大鐘鳴鼓琴瑟竽笙之声、以求興天下之利、除天下之害。而無補也。
子墨子曰く、しばらく嘗(こころ)みに厚く万民に措斂(せきれん)して以て大鐘・鳴鼓・琴瑟・竽笙の声を為し、以て天下の利を興すを求め、天下の害を除かん。しかれども補う無からん。
墨子先生はおっしゃったんじゃ。
「とりあえずは、全人民から税金を搾り取って、大きな鐘と音の出る太鼓と琴・おおごと、縦笛・横笛の音を上げよう。それによって天下の利益を増やし、天下の害悪を除こうではないか。・・・としても、何もプラスにはならないであろう」
つまり、
子墨子曰、為楽非也。
子墨子曰く、楽を為すは非なり。
墨子先生はおっしゃったんじゃ、
「音楽活動はしてはならん」
と。
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「墨子」非楽上篇より。墨子先生は「ゆとりを持ってはいかん、働け働け」というんです。さすがは天下を歩き回って働き続け、足がくるぶしまですり減ってしまった、という伝説のスーパーワーカーズホリッカーだ。
現代になってさらに強化されたみたいです。試みに「BTSや大谷にも言ってやってくださいよ、あいつらが活動するからみんなが音楽やスポーツに興味持つんですよ」と反論してみたら、
―――いやいや、BTSも働くのじゃ、大谷も働くのじゃ。
さらに曰く、
―――働き方改革じゃ。帰って子育て夜も眠るな。
―――生み出すべし、付加価値を。
ああ、これらは「墨子」の師匠「経子」の教えである。経子、名は材界、字は段連、新自由主義先生と号す。その思想は太古より今に至るまで、幾多の英雄たちに影響を与えてきたのである・・・。
みなさん古いとか遅れているとか笑いますが、墨子と比べると孔子の教えが如何に健康的な思想かよくわかりますね。