為如何人(如何の人と為す)(「何氏語林」)
食べ物だったらどうするつもりだったんでしょう。賞味期限過ぎてても〇年以内なら大丈夫、という人もいるから大丈夫かも。

中から国家を食いつくす。
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元の時代のお話です。
湖広行省の員外郎(臨時の参事官)であった曺鑑、字・克明は「五経」の大義に通じた儒者として令名があったが、管内の麻陽府の主簿(総務部長)・顧淵白というひとから、手紙をもらった。何度か顔を合わせたことはあるが、穏やかな紳士である。
手紙は古典に関する質問で、
因寄辰砂一函。
因りて辰砂一函を寄す。
授業料代わりであろう、「辰砂」一箱が付いていた。
「辰砂」はいまでいう無機水銀の粉です。美しい赤色を発し、漢方薬の材料になります。おそらく土地の名産の薬を贈ってくれたようである。
質問への見返りに、素朴なお土産をもらった。曺鑑は顧淵白の人柄を思いやりながら、
未及啓封、漫置筐中。
いまだ封を啓くに及ばず、漫りに筐中に置けり。
必要になったら使おうと、箱の封も開かずに、そのまま置いておいた。
数年を経て、中央から赴任してきた役人が病気になり、
苦無好辰砂。
好(よ)き辰砂の無きに苦しむ。
良質な「辰砂」がなくて困っているとのことであった。
曺はその役人の家人を呼んで、辰砂の箱を示し、
有一故人、嘗以此見恵。尋当奉送。
一故人有りて、嘗てこれを以て恵まる。尋(もっ)て奉送すべし。
「古い知り合いがいましてね、以前これをいただいていました。ちょうどいいから、これをご主人にお贈りしましょう」
と言って、
及取視、乃有砂金三両雑其内。
取りて視るに及びて、すなわち砂金三両のその内に雑わる有り。
はじめて箱を開いて見てみたところ、箱の中には、砂金が約110グラムほど入っていた。
本日の相場を見てみたら、金100グラムの店頭買い取り価格150万円と出てました。
がびょーーーん。
これは現在価値で165万円ぐらいの、所管の上層部への贈答品だったんです。
曺驚歎曰、淵白以我為如何人耶。
曺、驚き歎きて曰く、淵白、我を以て如何の人と為すや、と。
曺は驚き、嘆いて言った、「淵白めは、わしのことをどんな人間だと思っていたのだ!」と。
すぐに確認すると、
時淵白已没。
時に淵白はすでに没す。
この時には、淵白はすでに亡くなっていた。
「誰か跡を継いだ者がいるだろう」
呼其子帰之。
その子を呼びてこれを帰せり。
その息子がいる、というのでそいつを呼び出すと、砂金を突き返した。
その間、挨拶の一言もなかったということである。
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明・何良俊「何氏語林」巻三より。曺鑑は後、礼部尚書(文教省長官)にまでなった。カネで動かないとはおかしな人だ、怪しからん・・・などと民意は思っているかも。