3月1日 年寄りの冷や水のようなものじゃ

能使汝售(よく汝をして售らしめん)(「鬻蕎麺者伝」)

うろんではなくそばでっか。

ソバでも食ってカえロンか。

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いずれの国のいずれの時でありましょうか、

城西沙場、有鬻蕎麺者曰泉氏。

善售、蓄婢僮数十百人。袒而磨者、巾而篩者、溲者、棍者、縷者、瀹者、陳器者、置漿者、待客者、日出而作、夜闌而後息。

もうかってはるんでっしゃろな。

実際には、主人と番頭は、
「目が回るような毎日やな」「これでは店員らはもちまへんで」
と悩んでいた。

それにしても、

吾聞蕎麺価之廉者、雖喜啖者、不耐百銭、少者其六之一飽。然而泉氏収銭、日数十百緡。可謂善售矣。

「緡」(さし)はだいたい百枚の銭を紐で綴ったもの。数十百緡といっているので、そういう緡銭が数千本だといっています。大好きな者が百銭≒一緡以下しか消費できない、というのですから、数千緡ということは、数千杯売れる、ということです。

ところで、

其北街亦有鬻焉者、亦曰泉氏。諸沽乎南泉氏者、過其門而弗顧。久之将更業。

南泉氏聞之、踵門而訊曰、我与汝同業乎、其兄弟也。今汝以不售、廃業不可也。我且貸乎汝。

北泉氏謝曰、雖能貸之、而不售也。恐不継。

南泉氏曰、我能使汝售焉。

さて、どうするのでしょう。

ミナミの泉屋は、

還命輸之銭、夜則戌而収鋪。有叩戸求沽者、輒曰戌之後、沽乎北泉氏、亦猶我也。

「そうでっか」「ほな行ってこましたろ」

於是諸沽乎南泉氏者、戌之後、皆之乎北泉氏。

おかげでミナミの泉屋の店員たちは以前よりは早く休めるようになった。

また、

由是北泉氏不售於昼、而售於夜、亦富。郷隣之聞者咸曰、善哉。然而南泉氏益售、卒大富。

嗚呼、泉氏市井賤人耳。然能推兄弟之愛者。又類乎己欲達而達人者。其致富、蓋有以也。

さて、学ぼうとする者は、このことからも学ぶことができる。

今夫仕之、駢肩於朝、其録於国者、独不有兄弟之親邪。至其同職連事、益近而益相嫉、曾寇讐之不若者、能無愧於泉氏邪。

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浪速・懐徳堂の名儒、履軒先生・中井積徳「鬻蕎麺者伝」(蕎麺を鬻ぐ者の伝)です。「本朝名家詩文」(学習院教授・岡田正之、慶應義塾講師・佐久節編、大正五年明治出版社蔵版)所収。キタの泉屋にステルス値上げでもさせるのかと思いましたが、系列化による補完営業だった。

二回に分けようと思ってたのですが、結局一回にしてしまいました。もう何時だと思っているのか。年甲斐も無く頑張ってしまいましたので、また調査報告が出来ませんでしたのう。

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