無頭好大胆(無頭、好ろしく大胆)(「籜廊琑記」)
頭が無い人がいると、手足は勝手に出来るからいいかも知れませんが、やっぱり周りは困ります。

頭無いとオニにも笑われるぞ。
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明の半ばごろのことですが、許逵(きょ・き)という人が、受験勉強のために
読書一楼。
一楼に読書す。
とある二階建ての建物の二階を借りて書を読んで勉強していた。
夜が更けてまいりました。
夜既深、偶爾回顧。
夜既に深く、偶爾に回顧す。
もう深夜という頃、たまたま(何やら異様な気配を感じて)後ろを振り向いた。
すると、
見背立二鬼、頭大如箕。
背に二鬼の、頭大なること箕の如きの立てるを見る。
背後には、頭が「箕」(先の方の開いたざるみたいなもの)のようにでかい化け物が二匹、立っていたのが目に入った。
「ふん」
こういうところにはこういうものが出るものである。
許逵は平然として言った、
小鬼好大頭。
小鬼、よろしく大頭なり。
「ちっぽけな化け物のくせに、ずいぶん頭がでかいもんだな」
こういうのが出た時には、恐れてはいけない。強く出た方がよい。
すると、化け物は答えた、
無頭尚書好大胆。
無頭の尚書、よろしく大胆なり。
「頭の無い大臣さまのくせに、ずいぶん胆がすわっているもんだな」
「はあ?」
尚書(六部(省)の長官・大臣)とはずいぶんな誉め言葉のようだが、「無頭」って何やねん?
だが、二匹の化け物は、
「あははは」「いひひひ」と笑い声をあげながら、
倐不見。
倐(しゅく)として見えず。
ふっと見えなくなってしまった。
まだ楼内に笑い声だけがこだましていた、という。
後、許逵は科挙を経て山東・楽陵の知事になり、ここで県城の守備に功績があったとして、当時一番の危険地帯とされていた江西の按察司副使に転任したが、朱宸濠の乱に対処しきれず、乱軍の中で惨殺された。(この乱を鎮圧したのが、王陽明であります。)
国難に死んだということで礼部尚書(文部長官)の位を贈られたが、葬儀のために郷里に運ばれてきたその骸には首が無かった。
鬼已預知之矣。
鬼、すでにこれを預知せり。
化け物たちは、ずっと前にこのことを知っていたわけだ。
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清・王守毅「籜廊琑記」巻五より。今日はこれだけで、余韻を以ておしまい。長官や大臣が頭が無いと困りますね。具体的な誰かのことではありませんよ。
明日居眠りがしづらいんで、今日は早く寝たいんです。ああ、でも早く寝たり遅く起きたりしたところで、明日はまたどうあがいても居眠りしてしまうであろう、会議で恥を掻くであろう、周りの人が実は別に気にも留めていないのに、みんな嘲笑していると考えて落ち込むであろう、と預言しておくぞよ。