恐不免耳(免れざるを恐るるのみ)(「世説新語」)
なんとなく暖かくなってきた感じがします。なんとなく、で、はっきりしないのですが、そういう曖昧さ(アンビギュイティ?でいいんでしたっけ??)が豊かな内包を含んで、いいではありませんか。

雪女先生、最強! と鼻高々の冬軍団だが、間もなく落ちぶれることを免れないであろうことが心配だ。
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東晋の名宰相・謝安がまだ会稽・東山に隠棲して布衣(無職)だったころのこと、
兄弟已有富貴者、集翕家門傾動人物。
兄弟已に富貴者有りて、家門を集翕して人物を傾動せり。
謝安の兄弟にはすでに財産も地位も高くなった者がおり、一族の者を集めて宴会を催した。ひとびとはその人の言動に注目し、影響を受けた。
謝家はもともと東晋屈指の名門貴族ですからね。
劉夫人戯謂安、曰、大丈夫不当如此乎。
劉夫人、戯れて安に謂いて曰く、「大丈夫、まさにかくの如くすべからざらんや」と。
謝の妻である劉夫人(こいつも貴族の鼻もちならんやつ)が、ふざけて、
「おとこと生まれたからにはこんなふうにならなくっちゃね」
と言った。
すると、
謝乃捉鼻、曰、但恐不免耳。
謝すなわち鼻を捉し、曰く、「ただ恐るらくは、免れざることのみ」と。
謝安は突然、夫人の鼻をつまんだ。
「何するのよ」
「黙ってろ」
そしておもむろに言った。
「どうも逃げられそうにはないのが心配なんだよな」
と。
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宋・劉義慶「世説新語」排調第二十五より。最後のコトバ、みなさんはどちらの心配に解しますか。
A)あいつは、富貴になった以上、禍(わざわ)いから逃げられることはないだろう。
B)おれも(これだけの能力があるので)そのうち富貴の地位に就くことから逃げられないだろう。イヤだけど。
むかしから両様に解釈できる、とされていてどちらが正解かわかりません。
「そんなのもやもやして困る」
「おほほ、欧米文化みたいに一つに決められないのね、後れている」
「やっぱり新自由主義の何たるかを理解してない昔の東洋人では、これが限界か」
などの声も聞こえます。普通の器量のひとならA)でしょう、謝安の友人兼好敵手であった桓温ならB)でしょう。しかし、謝安はほんとにどちらかわからない。故事成語としてはどちらの意味にも使えますので、覚えておくと一粒で二回使えます。
なお、貴族の女のテングの鼻を折ってやったのは手柄だ。