2月7日 誰かにウンをつけてあげたい

君人之言(人に君たるの言)(「史記」)

みなさん知ってることだから読まなくていいですよ。

人に押し付けようとするとかえってウンが悪くなるかもだぜ。政治家につけちゃえばいいのかも。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

春秋の時代、宋の景公三十七年(前480)のこと、

熒惑守心。心宋之分野也。

天上の星を二十八の宿に分けて、それぞれに地上の一定地域を当てはめ(〇〇宿は✕✕国の「分野」、という言い方をします)、天上に起こったことが地上に起こるのだ、という占星理論を「分野説」といいます。

熒惑(けいこく)は星の名。後世は火星のことだということになりますが、この時期はまだ火星ではなく、彗星や超新星など「妖星」の一種だとされていました。「心」は「心宿」のことで、東方の夜空にいる巨大な龍の心臓に当たるとされる星域。だいたい今のさそり座の一部、といわれます。

景公憂之。

「熒惑」は戦争や飢饉、要人の死など、悪いことを惹き起こす星だからである。

天文官の司馬子韋が言った、

可移於相。

「そんなことが出来るのか?」

というような疑問は、古代のひとは持ちません。何しろ最新理論です。量子力学だと思ってください。

景公は言った、

相吾之股肱。

そこをやられたら動けなくなるぐらい重要な機関なのだ。だから、大臣には移さない。

可移於民。

君者待民。

だから、人民には移さない。

可移於歳。

禍いは収穫になすりつけて、収穫を減らして、君主や国には迷惑をかけさせない、という考えです。そんなことできるか、と思うと思いますが、最新理論です。疑ってはいけません。

歳饑民困。吾誰為君。

子韋は言った、

「いやあ、これはよかった。

天高聴卑。君有君人之言三。熒惑宜有動。

いや、確実に動き出します。断言できますぞ」

恒星なら動きませんが、なにしろ妖星ですから、動かないなあと思っていたら、突然動き出したりする。天上を移動して「宋の分野」から外れてくれればそれでいいのです。

ほんとかなあ。

於是候之、果徙三度。

三度は天球の百二十分の一ですが、別の星座に移ってしまった。
景公はあと二十七年生きて、六十四年(前453)まで生きています。だがその没後、宋は混乱し、亡国への道を歩み始めるのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「史記」巻三十八「宋微子世家」より。同じ話をしている「呂氏春秋」の方が古いのでそちらから引用したかったのですが、発見できないので、「史記」を典拠にさせていただきました。そのほか「淮南子」や「新序」にも出てくる、古代の有名説話なので、みんな知ってると思います。知らなかった人も「い、いや、知っていましたじゃよ」と言って、今回を機会に覚えておかないといけません。

ホームへ
日録目次へ