顔色如桃色(顔色桃の色の如し)(「夜航船」)
みなさんもいつまでも若々しくしていてくださいね。わしはもういいや。

ふうじんだ。

らいじんだ。いずれも劣らぬ若々しい姿である。
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明のころ、湖北・荊州の玉泉寺は清渓山地に近く、
山洞往往有乳窟、窟中多玉泉交流。
山洞往々にして乳窟有り、窟中多く玉泉交流す。
山のうろになったところには、何か所か鍾乳洞があって、洞窟の中で形成された玉と泉の水が交わり流れている。
其水辺処処有茗草羅生、枝葉如碧玉、拳然重畳。其状如手、号仙人掌。
その水辺に処処に茗草羅生し、枝葉は碧玉の如く、拳然として重畳なり。そ状は手のごとく、号して「仙人掌」という。
洞窟の水辺(なので日光はほとんど当たらない)にはあちこちに、香草が生えている。枝と葉は青い玉のようであり、こぶしを重ねたような姿で、手のようにも見えることから「仙人掌」とも呼ばれていた。
蓋曠古未睹也。
けだし、曠古いまだ睹ず。
どう考えても、超古代から今に至るまで見たことがないものであった。
「仙人掌」はサボテンの漢名ですが、見たことない、と言ってます。サボテンを見たことがないのか、だとするとなぜ「仙人掌」という名前だけ知っているのかなど謎が謎を呼びますね。
あまり誰も注目していなかったようなのですが、
惟玉泉真公常採而飲之、年八十余、顔色如桃色、此茗清香酷烈、異于他産。
ただ、玉泉真公のみ常に採りてこれを飲み、年八十余なるも顔色は桃の色の如く、この茗は清香にして酷烈、他産に異なれり。
ただ一人、玉泉寺の真和尚だけが、いつもこの「仙人掌」を採取して(お茶にして)飲んでおり、もう八十何歳のはずだが顔の色は桃のようである。お茶の香りが清らかでかつ激しい点で、他の地で採れるものとは一線を画していた。
所以能還童振枯、扶人寿也。
よく以て童に還し枯れしを振うところ、人寿を扶くるなり。
人を子どもに返し、枯れ木に生気を与える力があり、人の寿命の延長にも役立つものである。
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明・張岱編「夜航船」巻十一「日用篇」より。「夜航船」は文学用語を他の本から抜粋して解説してくれている重宝な本ですが、この「仙人掌」の解説は引用書名がわからないようです。
「仙人掌」がサボテンのことだといいですね。命延びるとは、サボテンにもそんな効能があるのだろうか。食べると口の中トゲトゲだらけになるからお茶に煎じて飲んでいるのかも。