中有宝物(中に宝物有らん)(「墨余録」)
なんだかわからないものが出てきますよね。宝物のはず・・・がない。

「ひっひっひ、地蔵の腹の中に何が入っているか調べたい・・・」という人もいるかも。
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粤賊(えつぞく)、すなわち「太平天国」軍がが江寧の町を攻め落とした時のこと、壊れた(自分たちが攻める時に壊したんですが)城壁を修理するために、古い石碑を掘り出して材料にしようとした。
江寧は古い町だから、三国時代の碑や六朝時代の碑や唐の将軍の碑やら宋代のやら、
磊磊然幾難悉数。
磊磊(らいらい)としてほとんど数を悉くし難し。
ごろごろと出てきて、いくつあるか数えられないくらいであった。
内有一碑特奇。
内に一碑の特に奇なる有り。
その中に一枚、特別に不思議なのがあった。
高一丈余、闊三四尺、質黒如漆、上鐫一女子、支頤閉目、頸拖白練。下有古篆数字、人不能識。
高さ一丈余、闊(ひろ)さ三四尺、質黒くして漆の如く、上に一女子の頤を支えて閉目し、頸に白練を拖(ひ)けるを鐫(ほ)る。下に古篆数字有るも、人識る能わず。
清末の一丈≒3.2メートル、一尺≒32センチを当てはめて計算します。
高さは3.2メートル以上あり、幅は96~128センチ、石の質は真っ黒で漆のようだ。表面に女が一人彫り込まれているのだが、その女は頬を(手で)支えて目を閉じ、首の回りに白い練り絹を巻いている。その下に、古代の文字が何文字か刻まれているが、誰にも読めなかった。
女は首を吊っている図なのかも知れません。北京や上海のすごい知識人ならともかく、粤(広州)から流れてきた太平天国のやつらには、古代文字の解読はムリです。
表面の図も不思議だったが、それより、この石碑、
扣之声如鼓、似空其中者。既出而飛鳥咸集。
これを扣くに声鼓の如く、その中を空にせるが似(ごと)し。既に出だすに飛鳥みな集まる。
これを叩いてみると、鼓のようにいい音が聞こえる。中に空隙があるかのようだ。地中から掘り出してみると、空を飛んでいる鳥がみんな集まってきた。
「ひひひ、こいつは不思議だぜ」「へへへ、何が入ってんのかなあ」
太平天国軍とはいえ元々は荒くれたちの集まりだ。欲望はかなり強いのだ。
賊疑中有宝物。乃以斧撃之、既無所損。鋸亦不入。
賊、疑うに、中に宝物有らんかと。すなわち斧を以てこれを撃つに、既に損するところ無し。鋸もまた入らず。
太平天国軍のやつらは中に何か宝物があるのではないかと疑い、斧で何度も叩きつけた。だが、一か所にも傷つけることはできなかった。ノコギリを持ってきてきろうとしても、石質が堅くて入らないのだ。
くそー。
絶対宝物が入っているのでしょう。しようがないので打っちゃっておいた。すると、
後聞為西国人取去。
後聞くに、西国人のために取り去らる。
その後聞いたところでは、西洋人が持ち去っていったらしい。
此外、又得石獣一。
この外(ほか)、また石獣一を得たり。
このほかに、石のケモノ像一体を得ることができた。
状如猪、尾大耳小、長約三尺、高二尺許。
状は猪の如く、尾大にして耳小さく、長さ約三尺、高さは二尺許(ばかり)なり。
形はブタのようであるが、特に尻尾が大きくて耳が小さい。体長約96センチ、体高約64センチぐらいである。
石質人工、倶極堅緻。
石質・人工、ともに堅緻を極む。
石も彫刻も、どちらもどういう道具を使ったのか知らんが、とにかく堅くてあまりにも緻密を極めていた。
荒くれたちは中身を見るのが好きなのでしょう、
砕之、腹中五臓皆備。既不知何以置於中、而質重若此、初非供玩之物。更不知其何所用。
これを砕くに、腹中に五臓みな備わる。既にして知らず、何を以て中に置くやを。而して質重かくの如く、初め供玩の物に非ざるなり。更に知らずその何の用うるところなるやを。
この石獣を壊してみたところ、腹腔中から五臓(の模型)ワンセットが出て来た。よく考えてみると、どうやって石像の中に入れることができたのだろうか、疑問が湧いてきた。重くて石質も立派で、はじめからおもちゃにするようなものでもない。また、一体この石獣は何の儀礼に用いられるものだったかもわからないままであった。
とのことであった。
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清・毛奇齢「墨余録」巻七より。チャイナ古代の文明が高度であったということがわかります。ブタ型ロボットを作ろうとして、ほぼ成功していたのでは。動力の発明を忘れていただけかも知れません。