2月13日 がんばってくださいね

自彊不息(自彊息(や)まず) (周易・象伝)

―――きみ、今日は何か役に立つ漢文を紹介してくれたまえ。

なんだと!うるせえ!

と言って刃傷沙汰に及ぶわけにもいきませんので何か考えなければ。
ええー、役に立つことですか。それはまた難しい。何しろ東洋の昔の人たちの文章ですから、現代において役に立つなら今みたいにオロカ者扱いにはなってません。もし役に立つとしたら、漢字を覚えて漢字パズル得意になるぐらいしか・・・。

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今日は「彊」(きょう)という漢字を覚えておきましょう。

この字は「強」と同じ意味です。もっとはっきり言うと、「彊」が「強」の本字。「畺」(きょう)は田んぼと田んぼの間に線を入れて「境界」を表します。境界の線「一」は堅固で強くなければならない。堅固で強いと辛いかも知れない。人間がかちかちになって固まっているとしたらそれは死後硬直だろう・・・。ということで「畺」を持つ漢字はどれかの意味を含みます。「疆」(境域)、「薑」(はじかみ、山椒)、「橿」(もちのき、堅い木材)、僵(死後硬直した死体。キョンシーの「きょん」)など。「彊」も「固い材料で作られた大弓」を指す文字で、「強い」「したたか」の意味にも用いられます。ちなみに「強」の「ム」が驚くべきことに「畺」の省略形なんだそうで、その下に「虫」を書いて、強いカブトムシを表すのが「強」の原義なんです。ほんとう(本に書いてあるかぎりは)ですよ。

そこで、役に立ちそうなコトバ、

天行健、君子以自彊不息。

(天の行くは健なり、君子は以て自彊息(や)まず。)

天の行動様式は「健やか」であること。どんどん伸びていく。諸君、これを真似て、休むことなく自分を鍛えてくれ。

を引用しておきます。

明治天皇(戊申詔書)、渋沢栄一をはじめ如何にも明治好みのコトバでいろんな学校や会社の校歌やら社訓に出てくるから覚えておきましょう。

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「周易」乾卦・象伝。乾卦は六つの爻がすべて陽からなる64分の1の卦です。宋の程伊川先生がこれに注して曰く、

乾道覆育之象至大、非聖人莫能体。欲人皆可取法也、故取其行健而已。

(乾道の覆育の象は至りて大、聖人にあらざればよく体する莫(な)し。人みな法を取るべしと欲すれば、故にその行健を取るのみなり。)

「乾」の卦のやり方、つまり万物を覆い育てるというその姿はあまりにも巨大である。孔子さまのような聖人でなければその全体を自分のものにすることはできない。しかし一般人もみなその方法を学んで欲しいと思って、(易の注釈者は)乾の卦の「健やかに伸びて行く」という一端だけを取って注釈したのである。

至健固足以見天道也。君子以自彊不息、法天行之健也。

(至健はもとより以て天道を見るに足る。君子以て自彊息まず、天行の健に法れ。)

「健やか」であることも極めれば、そこに天の道を観察することもできるだろう。みなさん、休まず自分を鍛えて、天の健やかな行動様式を真似てください。(聖人じゃないんだからそれで充分です。)

と、「おまえさんたちはここまでやれればそれでいいだろう」という冷淡な解説をしている(「程氏易伝」)のも、一日立ったまま先生の教えを待っていた弟子たちに

「まだいたのか。もう帰ってもいいぞ」

と雪の二尺積もる中を追い返したというこの先生らしいですね。

なお、「象伝」は卦の形象に着目した注釈、というのが一般的な解釈ですが、漢代に「象(エレファント)」をシンボルにしていた易者集団があって、彼らが伝えた注釈のことだ、という魅力的な説があるので紹介しておきます。

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