2月12日 これは大人向けではありません

役于人而食其力(人に役せられてその力を食らう) (柳河東集)

これぐらいは働いてもらいたいところだ。

唐の山水詩人・柳宗元は、唐・順宗(在位805)の「百姓相聚りて歓呼大喜す」と言われた永貞新政を支えた八司馬の一人、順宗が(おそらく毒を盛られて)発病し同年中に憲宗が継位するや、失脚して、以後とうとう一度も都には戻れなかった―――という正義の人だからみなさん大好きだと思います。

そこで、彼の「寧国の范明府を送る詩の序」(寧国府の明察な范知事を送別する詩集の序文)から引用してみましょう。ちなみに柳宗元がこの「序」を書いたのは、まだ上記の永貞新政の前の、都で若手のやり手官僚をしているころです。

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最初に、唐の時代の官僚制度について、述べます。しかしこれはめんどっちいので省略。

さて、もう五六年前になりますが、范伝真という人が、仕官しようと長安に出てまいりました。

彼と面会した高官たちは、

多言其美。

(多くその美なるを言う。)

この「美」は「うつくしい」とか「かっこいい」ではなく、当時の官僚の最高の評価で、

〇端愨而習于事(端愨(たんかく)にして事に習う) 

1 マジメで慎しみ深く、2 仕事に習熟

〇弁達而勤其務(弁達にしてその務めに勤しむ)

3 判断力と理解力に優れ、4 所掌事務に勤勉

という1~4を充たしている「デキる」やつ、を意味するようです。

高官たちはみな、「こいつはできまっせ」と称賛した。

そこで、宰相は彼を採用し、門下省で勤務させた。門下省は詔勅を中書省に交付して施行させる前にその内容を議論する役目を持つ枢要な役所です。

范はそこでもよい評判を得た。

三年の任期を終えて、范は京兆(首都周辺)武功県の尉となり、そこでも好評を得て、次いで宣州(安徽)・寧国県の県令に任ぜられた。

これに対して、口さがない者たちが言った、

「京兆府内か隣の万年県の令、これを「美仕」(デキるやつの職)というのだが、范はそれから外れたようだ」

寧国令になった范は言った―――

不然。夫仕之美、利乎人之謂也。与其給于供備、孰若安于化導。

(然らず。それ、仕の美は人に利するの謂いなり。その供備に給せられんと、化導に安んずるといずれぞや。)

そんなことはないでしょう。ああ、仕事をするときの「デキる」とは、誰かに利益を与える、ということです。いい処遇や給料をもらうより、人民を教化し指導することに没入できる方が、社会に利益を与えることができるのではないでしょうか。

故求発吾所学者、施于物而已矣。

(故に、吾が学ぶところのものを発して、物に施すを求むるのみなり。)

というわけで、わたしはこれまでわたしが学んできたことを発揮して、他者に対して何かを与えたい、と思うばかりです。

夫為吏者、人役也。役于人而食其力、可無報耶。

(それ、吏たる者は、人の役(えき)なり。人に役せられてその力(りき)を食らう、報いらる無しとすべけんや。)

だいたいですね、ビジネスパーソンというのは、他者に使われる者です。他者に使われて、その人たちが耕作して得たものを食わせてもらうのです。報酬が無いとか少ないとか、そんなこと言えますか。

そこで、わたしはこれから、任地において人民を慈しみ、虚偽暴悪の連中を退けましょう。

以恵斯人、而後有其禄、庶可平吾心而不愧于色。苟獲是焉、足矣。

(以て斯人に恵み、しかる後にその禄有りて、吾が心を平らかにして色に愧じざるべきに庶(ちか)し。いやしくもこれを獲ば、足れり。)

そうやって人々に利益を与え、その後で給料をもらう。そうであれば、わたしの気持ちは落ち着き、外面的にも恥ずかしい思いを失くすことができそうです。それができれば、十分です。

「へー。そりゃ、立派ですなあ」

其僚咸悦而尚之。故為詩以重其去、而使余為序。

(その僚みな悦びてこれを尚(たっと)ぶ。故に詩を為(つく)りて以てその去るを重んじ、余をして序を為らしむ。)

同僚たちはみんな彼のコトバに快感を覚え、彼に敬意を持った。そこで、みんなで詩を作って彼の去っていくのを大切な思い出にし、わたし(柳宗元)に全体の序文を書け、ということになったのである。

要するに、送別の寄せ書きをしたんです。

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「柳河東集」より。みんなで作った方の詩は遺っていないんです。

世の中の仕組みはいろいろ難しいので、こんなの紹介しても

「おいおい、そうはいかないだろう」

と言われ

「肝冷庵もお甘いことで」

「東洋的な王道思想のノスタルジーに酔いしれているのね」

「ノブリッジ・オブリゲーションのこと言おうとしてる? ちゃんと欧米の勉強をしろよ」

「わははは」「おほほほ」「ひいっひっひっひ」

と嘲笑されてしまうのですが、どうせこのHPは世の中の人にまず読まれない、と思うと、好き放題ですわー。わははは。

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