無道而来(無道にして来たる)(「何氏語林」)
上司になると部下と対等に戦えるかも、と無道にも思って上司になると、何言っても直してくれない部下がいて仕事が進まない、こともあったんです。

ちなみに、神さまが降りて来た日、ではないんですよ。
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南朝の斉の高帝(蕭道成。在位479~483)の時、宋→斉の王朝交代の際に、
魏人南伐至淮而退。
魏人、南伐して淮に至りて退く。
華北を征圧している北魏が兵を動かし、両国の自然境界となっている淮水のラインまで出撃してきたが、そこでさしたる衝突も無いまま退いて行った。
もちろん、どれぐらいの混乱が起こっているのか、威力偵察に来て、幼帝から権臣への典型的な禅譲なので大した混乱は起こっていない、と見て引き上げたのです。(※)
高帝は臣下に問うた、
何意忽来忽去。
何の意ぞ、忽ち来たり忽ち去る。
「突然攻めてきて突然引き上げて行ったな。どういうつもりであろうか」
※なのはわかっているのですが、これは答えが難しい。
時未有応者。
時にいまだ応ずる者有らず。
そのとき、すぐに答える者はいなかった。
※だと答えてしまうと王朝交代問題に触れなければならず、御気分を害するかも知れないのです。
居並ぶ高官たちは顔を見合わせて口を噤んだ。
この時、
張思光在下坐。抗声言曰、以無道而来、見有道而去。
張思光、下坐に有り。抗声に言いて曰く、「無道を以て来たり、有道を見て去るのみ」と。
張融、字は思光はまだ朝廷の末席に座っていたが、(なぜ黙っているのか)とばかりに、高官たちの顔を睨みつけて、言った。
「やつらに道義が無いからやって来たのでございます。そして、我が国に道義が有るのを見て、恐れて帰って行ったのでございます」
と。
「なるほどのう」
皇帝はにこやかにお聴きになり、
公卿歎以為佳。
公卿、歎じて以て佳と為せり。
高官たちも、ためいきをついて「いい答えじゃ」と言いあった。
この答えも実は※だと言っているだけですよね。
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明・何良俊「何氏語林」巻四より。こんな取り繕ったことばかり言っているといい気になって失敗する、と思うか、これぐらい言わんと元気がなくなるからなあ、と思うか、国家戦略的にはどうだかわかりませんが、とりあえずうまいこと言ってくれたのでその場は収まったようです。この人はその後、島耕作さんのように出世したことでしょう。
我が国は一系なので王朝交代時の苦労や大虐殺が無いので、ありがたい。