趨之不及(これに趨るも及ばず)(「葆光録」)
惜しいことをしました。

おれが本体かも、とは気づくまい、でもー。
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五代のころ、浙江・婺州のとある僧が、
入山見一人。古貌巾褐騎牛、手執鞭、光鑠日色。
山に入りて一人を見る。古貌、巾褐して牛に騎り、手に鞭を執るに、日色に光鑠す。
山に入ったところ、人を見た。むかしの人の姿で、粗末な布の頭巾をかぶってウシに乗っていた。その手にムチを持っていたが、それは太陽の光のように輝いていた。
その人が、
扣角而歌。
角を扣いて歌えり。
ウシの角をぽんぽん叩きながら歌っているのだ。
その歌に曰く、
静居青嶂裏、高嘯紫烟中。塵世連仙界、瓊田前路通。
青嶂の裏(うち)に静居し、紫烟の中に高嘯す。塵世は仙界に連なり、瓊田に前路通じたり。
青い峰の向こうに静かに住み、紫のもやの中で声をあげて歌っているよ。
このゴミクズの世界は実は仙界と地続きで、美しい水田を進んで行けばそこに通じているのになあ。
仙人と思われる。
「お待ちくだされ!」
僧揖之不応、馳歩趨之不及。
僧はこれに揖するも応じず、馳歩してこれに趨るも及ばず。
僧は、その人に声をかけて手を胸の前に組んで挨拶したが、その人は振り向こうともしなかった。駆け足でその人を追いかけたが、どうしても追いつけなかった。
「どうかわしを・・・、わしも・・・おお!」
僧が力尽きて倒れると、
望赤松而去。
赤松を望みて去りぬ。
古来、仙人が住んでいるといわれる赤松山の方に向かい、その姿は見えなくなってしまった。
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五代・陳纂「葆光録」巻一より。惜しかったですね。ジョギングなどで体を鍛えておけば追いつけたかも知れません。
今日は40年前の知友のみなさんと中華。酔って帰ってきてPCの前でひと眠りしてました。寒くて目を覚ましたが、また現世にいた。もう少しだったのかも知れないのに。