某郎好酒(某郎は酒を好む)(「顔氏家訓」)
ネコはかわいいですがムコはどうか。

トナカイバイトで年を越せる・・・かにゃ。
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南朝・梁の時代、荊州・南陽に
有人、為生奥博、性殊倹吝。
人有り、生を為すこと奥博にして、性ことに険吝なり。
生産活動はずいぶん手広くやっていたが、性格はひどくケチな人がいた。
嫁に行った娘からずいぶん金品の無心があったが、一物も与えようとしなかった。
冬至後、女婿謁之。
冬至の後、女・婿これに謁す。
冬至が過ぎて決算の近いころ、娘とその夫が里帰りして来た。
当時の風習として、娘は奥でおふくろさんや姉妹たちと会食し、婿は主人が宴を用意する。
主人も婿のために宴席を開いてくれたのだが、
設一銅甌酒、数臠麞肉。婿恨其単率、一挙尽之。
一銅甌の酒、数臠の麞肉を設くるのみ。婿、その単率なるを恨み、一挙にこれを尽くす。
出したのは、一本の銅製の容器に入った酒とシカ肉数切れだけであった。婿は、単品でお粗末なのを不満に思い、一気に飲み、食ってしまった。
「甌」(おう)は、カメではありません。さかずきよりは大きい貯酒の器で、「お銚子」程度の大きさでしょう。
一気に飲み食いしてしまった婿を見て、
「なんという贅沢な男だ」
主人愕然、俛仰命益、如此者再。
主人愕然として、俛仰(べんぎょう)に益を命ずるも、かくの如きこと再なり。
主人がびっくりして、急いで二杯目を出すよう(家人に)命じたが、婿はさらに二回同じように振る舞った。
「俛仰」は、下を向いて上を向く、それぐらいの短時間で、あわてて、の意です。
「むむむ」
退而責其女、曰某郎好酒、故汝常貧。
退きてその女を責めて曰く、「某郎酒を好む。故に汝常に貧なり」と。
奥に帰ってきて、娘に説教して言った、
「婿殿は酒好きじゃな。あれでは、おまえの家の生活がいつも苦しくなるわけだ」
と。
結局、今回も援助してくれなかった。
及其死後、諸子争財、兄遂殺弟。
その死後に及んで、諸子財を争い、兄遂に弟を殺せり。
その人が亡くなった後、息子たちが財産争いを起こし、とうとう上の息子が下の息子を殺してしまうという事件にまで発展した。
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隋・顔之推「顔氏家訓」治家篇第五より。婿はゆっくり食べないといけません・・・という教訓かな。