可臻其極(その極に臻(いた)るべし)(「顔氏家訓」)
なんの極に至るのでしょうか。

宇宙の涯で待ってるぜ!
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クリスマスのみなさんに、コトバのプレゼント。
「礼記」曲礼上篇に曰く、
欲不可縦、志不可満。
欲はほしいままにすべからず、志は満たすべからず。
欲望はやりたい放題にさせてはならず、やりたいというキモチは満足させてはいかん。
いい言葉ですね。肝に銘じましょう。
以下は、息子たちへのプレゼント「家訓」じゃ。
(第一章)
宇宙可臻其極、情性不知其窮、唯在少欲知足、為立涯限爾。
宇宙はその極に臻(いた)るべきも、情性はその窮まりを知らず、ただ欲を少なくし足るを知るに在りて涯限を立つを為すのみ。
宇宙は広いが、その涯に到ることもできよう。だが、ひとの心はどこまでいけば限界だということを知らない。ただ、欲望を少なくして、足るを知ること、その中にしか限界を立てることはできないのじゃ。
―――うるせえ。
なんじゃと。
先祖靖侯戒子姪。
先祖・靖侯、子姪を戒しむ。
先祖の後漢の靖侯・顔含さまが、子どもや甥っ子たちを戒めたことばを忘れたのか。
―――知らん。
こう言ったのではなかったか。
汝家書生門戸、世無富貴。
汝の家は書生の門戸にして、世に富貴無し。
「おまえたちの(つまりわしの)この家系は、学問をして文官になる家柄なのじゃ。代々、大きな財産を蓄えたり高い身分に到った者はおらん」
自今仕官不可過二千石。婚姻勿貪勢家。
今より仕官して二千石を過ぐべからず。婚姻には勢家を貪ること勿れ。
二千石というのは、漢代の地方の太守の給料です。仕官二千石、というのは、地方官のトップぐらいにまで至る家柄、ということです。貴族の中では真ん中ぐらいでしょうか。
「わし以降のおまえたち子孫は、役人になっても給料二千石の県知事ぐらいまでしか出世してはいかんぞ。また、結婚する相手は、権力のある名家にしようなどと望んではならぬ」
―――九品中正法以降の格差社会で、おれたちがそんなところまで出世できるはずないだろう。
―――結婚そのものができない時代に上昇婚をやめろ、とかどういう感覚なんかね。
吾終身服膺、以為名言也。
吾は終身服膺し、以て名言と為せり。
わしは一生、ご先祖の言葉を胸に大切にしてきた。これは名言だと思っておる。
―――もう世の中が変わってるんですよ、おやじさん。
むむむ・・・。
(第二章)
天地鬼神之道、皆悪満盈。謙虚沖損、可以免害。
天地鬼神の道、みな満盈を悪(にく)む。謙虚にして沖損なれば、以て害を免るべし。
天地・精霊たちの方法論は、すべて満ち溢れた状態が大きらいなのじゃ。へりくだり、控えめにしていれば、なんとか害を逃れることができよう。
―――コスパがいいですよね、その方が。
人生衣趣以覆寒露、食趣以塞飢乏耳。形骸之内、尚不得奢靡、己身之外、而欲窮驕泰邪。
人生、衣の趣(おもむ)きは寒露を覆うを以てし、食の趣きは飢乏を塞ぐを以てするのみ。形骸の内、なお奢靡を得ざるに、己の身の外にして驕泰を窮めんと欲するや。
人の生活では、衣服は寒さと露から覆われていればいい。食べ物は飢えや欠乏を防げればいい。(そのように)身体に直接関係する問題でも、奢りや贅沢は必要でないのに、どうして身体と関係のないことについて、他人に誇り安泰であることをどこまでも求めなければならないのか。
―――おやじ、意外に分かってるじゃん。でふれの世の中だからね。
そ、そうか。
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隋・顔之推「顔氏家訓」止足篇より。六朝貴族も最後はこんな感じです。現代もこんな感じで世代間の了解がついた状態ですかね。