磨鉄杵(鉄杵を磨く)(「方輿勝覧」)
やる気も根気も無いのにだんだん寒くなってきて困っております。

やる気や根気が無くても才能があればいいのでは?
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四川・眉州に象耳山という山があり、
山下有磨鍼渓。
山下に磨鍼渓(ましんけい)有り。
山の麓に、磨鍼渓という谷がある。
相伝李太白読書山中、未成、棄去。
相伝うるに、李太白山中に読書し、いまだ成らずして棄てて去らんとす。
伝説では、唐の時代、李太白がこの山中で勉強していたそうなのだが、いまだ大成しないうちに厭きてしまったらしくて、
「やってられません」
と投げ出してどこかに行こうとした。
山を下りて来て、
過小渓、逢老媼方磨鉄杵。
小渓を過ぐるに、老媼のまさに鉄杵を磨くに逢う。
小さな谷を通り過ぎた時、ばばあがちょうど鉄のキネをごしごしと擦っているのに出くわした。
「ばばあ、何をしているんですか」
と問うたところ、ばばあは言う、
欲作鍼。
鍼を作らんと欲するなり。
「針が欲しいもんだからね、今これを削って針にしようとしているところだよ」
「何百年もかかるのでは・・・」
と言いかけて、
太白感其意、還、卒業。
太白その意に感じ、還りて業を卒(お)えたり。
李太白は「あ!」とばばあの言葉の意味に気づいた。面倒なことでも続けていけばいつかはモノになるのだ。すぐ山中に戻って勉強を再開し、立派な学問を積んで翰林学士になったのである。
なお、
媼自言姓武。今渓旁有武氏岩。
媼自ら言うに姓、武なり。今、渓の旁に武氏岩有り。
ばばあは「あたしは武という姓だよ」と言っていた。確かに、今その地を訪ねると、渓谷のかたわらに「武氏の岩」という大きな岩がある。
のだそうです。ばばあは、鉄杵を削っているうちに、ついに岩となったのであろうか。
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宋・祝穆「方輿勝覧」より。鉄のキネをどこから持ち込んだのか、ということを合理的な知性で検討していくと、ばばあも李白ももう少し楽ができるような気がするのですが、李白ではムリか。なお、「方輿勝覧」はチャイナ各地(南宋の版図内に限定)の地名と、その土地に関わる伝説や古記録・詩などをまとめたもの。その土地の産業構造や人口が書かれているような近代的な地理書ではありません。ちなみに、著者の祝穆さんは、朱子の親戚でかつ弟子という人です。