真画者也(真の画者なり)(「荘子」)
芸術のためならバクハツするしかないのだ。

人生一度ぐらいバクハツしてあいつらを痛い目に逢わせたかったが。
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春秋時代の終わりごろのことだそうでございますが、宋の元公(在位前531~前517)が新しい宮殿を造り、その内部を壁画で飾ろうとしたそうです。そのことが大いに評判となり、
衆史皆至、受揖而立、舐筆和墨。
衆史皆至り、揖を受けて立ちて、筆を舐め墨を和す。
各地の画家たちがみな集まってきた。受付で(公の)一礼を受けると立ち上がり、(壁の前で)筆を嘗め、墨を磨り始めた。
当時のチャイナ中からたくさん集まってきたので、
在外者半。
在外者半ばなり。
室内に入れたのは半分だけで、まだ半分の人が外で順番待ちをしていたのであった。
そこへ、
有一史後至者、儃儃然不趨。
一史の後れて至る者有り、儃儃然(たんたんぜん)として趨らず。
一人、遅れてやってきた画家があった。のそのそとして急いで駆けて来るわけでもないのである。
受付で
受揖不立、因之舎。
揖を受くるも立たず、これに因りて舎す。
公から一礼を受けても立ち上がろうともせず、満員なのを理由に宿舎に帰ってしまった。
(なんだ、あいつは)
公使人視之、則解衣槃礴臝。
公、人をしてこれを視せしむるに、すなわち解衣し、槃礴(はんはく)して臝(ら)せり。
「槃礴」は「あぐらをかく」。「臝」は「裸」と同じです。
元公は人を遣わしてその画家の様子を観察させた。画家は宿舎につくと服を脱ぎ、あぐらをかいてハダカになっていた。
「はだかになっていました。あの人はへんたいですよ」
という報告を聞いて、元公は言った、
可矣。是真画者也。
可なり。これ真の画者なり。
「いいではないか。この人は本当の画家ですぞ」
と、一段と厚く遇したのであった。
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「荘子」田子方篇より。この人は、ただの露出狂おやじではないのでしょうか。
いや、そうではありません。宋の郭熙「画意」によれば、
此真得画家之法。人須養得胸中寛快、意思悦適、如所謂易直子諒、油然之心生。
これ真に画家の法を得たり。人胸中を寛快に養い得、意思悦適、いわゆる易直子諒にして油然の心生ずるが如し。
この(「荘子」に出て来る)画家は、真の画家のやり方を会得しているといえよう。彼らは胸の中に寛大で快活な心を養い、思い浮かぶことは楽しく快適であらねばなりません。「礼記・楽記篇」にいうように「平易・素直・慈愛・誠実」な心が、油が水面に広がるように広がっていく、ようでなければならないのです。
則人之笑啼情状、物之尖斜偃側、自然布列於心中、不覚見之於筆下。
すなわち、人の笑い啼くの情状、物の尖り斜するの偃側、自然に心中に布列し、覚えずこれを筆下に見ん。
そうなれば、人間の笑いや涙のこころの姿、物体の真っすぐになったり斜めになったりする背面や側面、これらがおのずと心の中に整然と現れて来て、あとは意識せずとも筆を下ろせば形作られて行くことになるのだ。
まことの芸術家ははだかになるのが当たり前というのである。日本では裸の大将は全裸ではなかった。ヨーロッパのピカソは
雉食めばまして偲ばゆまた娶り赤々と冬も半裸のピカソ(塚本邦雄)
で半裸だった。なのに、さすがにチャイナの真の画家は、全裸である。
寒い時は全裸の上にコートだけ来て町に出かけたりするのでしょうか。そして女性を見るとニヤニヤしてバクハツだ! (・・・これぐらいの記述でもセクハラになるの?なるなら取り消します)
念のため(著者か肝冷斎がウソついているといけませんからね)、「礼記・楽記篇」より、該当部分を見ておきます。
君子曰、礼楽不可斯須去身。致楽以治心、則易直子諒之心油然生矣。易直子諒之心生則楽、楽則安、安則久、久則天、天則神。天則不言而信、神則不怒而威。
君子曰く、礼楽は斯須(ししゅ)も身を去るべからず。楽を致して以て心を治むれば、すなわち易・直・子・諒の心、油然として生ず。易・直・子・諒の心生ずればすなわち楽しく、楽しければ安く、安ければ久しく、久しければ天となり、天なれば神なり。天なればすなわち言わずして信じられ、神なればすなわち怒らずして威なり。
立派な人がおっしゃった―――「儀礼と音楽はほんの少しも間も身から放していけない(。いつも保持し続けていなければならん)。音楽を徹底的にやって心をコントロールすれば、平易・素直・優しい・誠実な心が、油が水面に広がるように湧いてくる。平易・素直・優しい・誠実な心が発生すれば、楽しくなってくるはず。楽しくなれば安心し、安心すれば固定化し、固定化すれば天性のものとなり、天性のものとなれば神秘的となる。天性のものとなれば、言葉で言わなくても信頼されるだろう。神秘的なものであれば、怒気を示さなくても畏れられるであろう。
どうでしょう。まあ、理解できる感じですかね。二千年以上前の人の言っていることですから、これぐらいで勘弁してやってください。