斬爾者誰(爾を斬る者は誰ぞ)(「明語林」)
間違っても、ホントのことを予言してはいけません。

おろおろとヘタな占い師のふりをしておらねばなりませんぞ。わたしなど、まわりのみなさんにオロカ者だと思い込ませきっているのだ。
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明の時代のことですが、韓雍という役人が両広総督(廣東・廣西両省の総督)になった。
この時、広東にものすごく当たると評判の占い師がいた。
韓は、この占い師が、
懼惑衆、命斬之。
衆を惑わするを懼れ、命じてこれを斬らんとす。
「人民たちを煽動して事を起こしてはいかん」と考え、占い師を捕らえると、斬り殺すことにした。
さすがは東洋のお役人です。
白洲に引き立てられてきた占い師を見て、韓はにこにこしながら言った、
知斬爾者誰。
爾を斬る者は誰かを知れるや。
「おまえは、自分を斬り殺す直接の加害者がどんな人間か、予知しておるか?
占い師ならわかるであろう? ん? どうじゃ?」
占い師はやはりにやにやしながら言った、
緋衣人。
緋衣の人なり。
「緋色い衣の人でしょうなあ」
「よし」
韓雍は首斬り担当の役人に、
命更白衣、斬之。
白衣に更(か)えてこれを斬るを命ず。
白い服に着替えて、刑を執行するように命じた。
「着替えたら、こいつを引き出して、民衆の前で公開処刑にせよ!」
「はは!」
しばらくして、死刑が終わりました。
首斬り役が、占い師の首を台に載せて持ってきた。
「ごくろうであった」
そして、何の気無しに首斬り役に訊いた、
「お前の名は?」
人斬り人は答えた、
裴姓也。
裴姓なり。
「姓は裴(はい)でございます」
「はい?「裴」?・・・「緋」色の「衣」か!!!!!!」
その瞬間、
がたん!
と台の足が外れて、首がごろごろと転がり落ち・・・地面の上で、にたりと笑った。
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清・呉粛公「明語林」巻十「術解篇」より。お役人の引き攣った顔など想像されて、写実的ですね。
わたしももうすぐ首切られます。最後に「にたり」と笑ってやりたいものですが、この老いぼれの口がそううまく動きますことか。