11月30日 昼寝もしているがまだ眠い

目前餓死(目前に餓死せん)(「集異新抄」)

さっきまで腹が減って死にそうでした。しかし寸前に大量に食った。

「おのれまだ生きておったか」「うぬこそすみやかに去り行くべし」

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明の時代のことでございます。

太守まで務めた我が蘇州の某氏は、

富甲一郡、居恒戚戚、若不聊生。

大金持ちなのに、おカネにうるさい人だったのです。

ある日、客人の前でため息とついて言うには、

安従得千金、便不憂此生。

すると、客人は、

撫膺而唏噓。

「どうなされた?」

吾願視公更奢。須千十金。

かなり具体的な数字が出されました。

卿貧士、安用此。

すると客人は言った、

以千金贈公、以十金付酒家胡。

からかっているのですが、

「ほほう」

太守為之掀髯。

自分がおカネをもらえると聞いたので、ご機嫌になったようです。

また、ある時、某太守は、

以銀工数人製酒鐺。

「鐺」(とう)は、日本では「こじり」(刀の鞘の先っぽ)ですが、チャイナでは「三本足のなべ」のこと。

鼓爐方熾、鉗鏨錚然。

そこへ友人の某公がやってきた。

座談良久、語及生産、太守復攅眉。

「どうされましたかな?」

弟更無余望、惟恐目前餓死耳。

客は笑って言った、

兄餓猶可、可憐諸匠人。

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「集異新抄」巻五より。またいい本見つけてきました。文物出版社稀見筆記叢刊(2017)所収。もともとは明の萬暦以降の誰かさん(佚名氏)が書いた元の本があって、これを清の李振青という人が書き写した、という稗史小説の類です。今回の某太守のエピソードは笑い話のようですが、怪奇、犯罪、不倫、残虐系のおもしろいお話がたくさん載っています。こういうのを読むと「生きているという実感」がわいてワクワクしてきますね、うっしっし。みなさんも屋根裏を散歩したり、浅草十二階から覗き見したり、密かな楽しみがございましょう。ひっひっひ。

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