不過如此(かくの如きに過ぎず)(「右台仙館筆記」)
ドラフト指名選手について、夢の膨らむ日々である。冥途の旅の一里塚とはいえ、早く来シーズン始まらないかなあ。

神戸牛や明石のタコなどの、人間への憎しみが感じられる肖像である。
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清の終わり近いころのことです。
河南・孟県の民某、とりあえず甲としておきますが、路上で、
忽有人負衣嚢悤悤而至、視之、乃素識之某乙。
忽ち、人の衣嚢を負いて悤悤(そうそう)として至る有り、これを視るに、すなわち素識の某乙なり。
突然、着物を入れた袋を背負って速足でやってくる人に出会った。よく見ると、知り合いの某(以下「乙」という)であった。
乙は、
脚色也。
脚色なり。
劇団のキャストであった。
と言ってもプロの劇団員ではなく、農村芝居の俳優で、あちこちの農村で開かれる村芝居に呼ばれて行くのである。
乙は甲に言った、
君何所思、豈又思見呂仙乎。呂仙在天上、安可得見。無已、吾為君扮一呂仙可乎。
君、何の思うところぞ、あにまた呂仙に見(あ)うを思えるか。呂仙天上に在り、いずくんぞ見るべけんや。
「おまえさん、何を考えていたのかね。以前、仙人・呂洞賓に会ってみたい、と夢のようなことを言っていたが、呂仙人は天上に棲んでいるから、どうやって会うつもりなのかな。しようがないが、わたしがおまえさんのために、呂仙人に扮装してやるとするか」
呂洞賓は「八仙」の一人、読書人で剣術も強く、民衆にたいへん人気のある仙人です。甲ももちろんそのファンだったのでしょう。
乙は、
解衣嚢出冠服、服之。星冠蜺衣、背負長剣、手執麈尾。
衣嚢を解きて冠服を出だし、これを服す。星冠、蜺衣、背に長剣を背負い、手に麈尾を執る。
背負っていた衣裳袋をほどくと、中から冠と服を出してそれに着替えた。星のマークの冠、虹色の衣服に、背中に長い剣を背負って、手に麈(のろじか)の尾の毛で作った箒みたいなものを持っていた。
芝居で見る呂洞賓にそっくりである。
乙曰、君視吾似呂仙否」。
乙曰く、君吾を呂仙に似たると視るや否や、と。
乙は言った、「どうかね、おまえさん、わしは呂洞賓みたいに見えるかね」と。
甲は答えた、
甚似。
甚だ似たり。
「すごく見えるね」
乙は言った、
然則呂仙亦不過如此。
然ればすなわち呂仙もまたかくの如きに過ぎず。
「それなら、本物の呂仙人もこんなふうなんだと思うよ」
「ふーん・・・」
此去十許里有某村、方演劇。待吾登場、吾去矣。
ここを去ること十許里に某村有りてまさに演劇す。吾の登場を待てば、吾去らん。
「ここから十里(一シナ里≒600メートル)ほど離れたところにある某村で、今日村芝居があるのだ。そこでわしが来るのを待っているはずだから、もう行かせてもらうぞ」
どうやら扮装がうまく行くか、試されたようである。
乙は服を着替え、扮装用の冠服を袋にしまいこむと去って行った。
その後、
甲惘然久之。
甲惘然(もうぜん)としてこれを久しくす。
なぜだか甲は、しばらくぼんやりとしていた。
やがて、目が覚めたように回りの景色がはっきりしはじめたので、
徐行至其村、将覩優。
徐ろに行きてその村に至り、優を覩んとせり。
ゆっくり歩いてその某村まで行って、村芝居を見ようとした。
ところが、村についてみると、
寂無所見。問之村人、皆言無其事。
寂として見るところ無し。村人に問うも、みなその事無しと言う。
ひっそりとして、村芝居の気配などどこにもない。畑仕事をしていた村びとに訊いてみたが、誰も彼も「そんな予定は聞いてないなあ」と言うのである。
甚怪之。
甚だこれを怪しむ。
たいへん不思議な思いをした。
さて、
他日又与某乙遇、問何誑我。
他日また某乙と遇い、何ぞ我を誑かすかと問えり。
しばらくしてから、また乙と出会ったので、「どうしてわしを騙したのだ?」と訊いてみた。
乙は言った、
是日我初未遇君。何誑之有。
この日、我初めよりいまだ君に遇わず。何ぞ誑かすこと有らんや。
「ちょっと待ってくださいよ。その日は、一日中あなたに会ってはいません。どうして騙すことができるんですか」
「え?」
甲はそれで
所遇真呂仙。
遇うところは真の呂仙なり。
あの日出会ったのはホンモノの呂仙人だったのだ!
と気づいた・・・というのであるが、真であろうか偽であろうか。
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清・兪樾「右台仙館筆記」巻十より。ホンモノだったら本人コスプレというやつです。完成度高そう。
大谷選手が六万人の子どもにグローブをプレゼントしてくれるらしいですが、この機会にお子さんに「大谷のグローブが当たったぞ」と言ってグローブ買ってあげたら喜びが二倍!いや、二乗!ぐらいになるかも。