安得為賢(いずくんぞ賢たるを得ん)(「新序」)
むかしの人は早起きだったんです。

小魚が賢いとオレなんか商売あがったりでチャク。
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春秋五覇の一人、楚の荘王(在位前613~前591)が、ある日、
罷朝而晏。
朝より罷(まか)ること晏(おそ)し。
朝の政務会議から後宮に戻ってくることがずいぶん遅くなった。
遅くなったといっても、少しが日が高くなった午前10時ころでしょうか、夫人の樊姫(はんき)が、どうしてこんなに遅くなったのか、訊いた。
荘王は答えた、
今旦与賢相語、不知日之晏也。
今旦、賢相と語りて、日の晏なるを知らざるなり。
「今朝は、あの賢い宰相とこれからの政策について相談していたので、日が高くなっていたのにも気づかなかったんじゃ」
賢相為誰。
賢相とは誰をか為す。
「賢い大臣、てどなたですの?」
為虞丘子。
虞丘子と為す。
「そりゃ、いま宰相は虞丘先生なんだからその先生に決まっているだろう」
「オオッホッホッホッホッホー」
樊姫掩口而笑。
樊姫、口を掩いて笑う。
樊姫はたもとで口を蔽いながら、大笑いした。
「何が可笑しいのじゃ」
妾幸得執巾櫛以侍王。非不欲専貴擅愛也。以為傷王之義、故所進与妾同位者数人矣。
妾、幸いに巾櫛(きんしつ)を執りて以て王に侍するを得たり。貴を専らにし愛を擅(ほしい)ままにせんと欲せざるには非ざるなり。以て王の義を傷(いた)めんことを為さん。故に進むるところ、妾と同位の者数人なり。
「わらわは、幸いなことに、ハンカチと櫛を手にして洗面所で殿様にお仕えすることができています(身の回りの世話をしていることをこういうふうに言うんです)。地位を確保し殿様の愛情を独り占めしたいと思うのが当たり前ですが、それでは殿様の義務(子孫を遺したりする)をお邪魔することになるのではないかとぐぐっとガマンして、殿様にわらわと同じぐらいの出自と美しさの女性を何人もお世話しました」
「そうだな・・・、いやいや、おまえほどのアレは・・・」
今虞丘子為相数十年、未嘗進一賢。
今、虞丘子、相と為りて数十年、いまだ嘗て一賢を進めず。
「ところが、あの虞丘の先生は、宰相となってからもう数十年になるはずですのに、いまだ一人の賢者も殿様にお薦めになったことがございません」
「それはそうだが」
知而不進、是不忠也。不知是不智也。安得是賢。
知りて進めざればこれ不忠なり。知らざるはこれ智ならざるなり。いずくんぞこれ賢なるを得んや。
「賢者がどこにいるか知っていて推薦しないのでしたら、これはひどい不忠者といえましょう。賢者を知らないのであれば、これはアホです。どちらにせよ、あの人は、賢者とはいえますまい」
そして、また「オオッホッホッホッホー」と大笑い。
「なるほど」
明日朝、王以樊姫之言告虞丘子。虞丘子稽首曰如樊姫之言。
明日の朝、王、樊姫の言を以て虞丘子に告ぐ。虞丘子、稽首して曰く「樊姫の言のごとし」と。
翌日の朝の政務会議のとき、王は、樊姫の言ったことを虞丘先生に告げた。虞丘先生は、あたまを地面にごつんとぶっつけて(大変な尊敬を示す振る舞いです)言った。
「樊姫さまのおっしゃるとおりでございます」
ここにおいて
辞位而進孫叔敖、卒以覇。樊姫与有力焉。
位を辞して孫叔敖を進め、ついに以て覇なり。樊姫与(あずか)りて力有り。
虞丘子は数十年務めたという宰相の地位を辞し、かわりに賢者・孫叔敖を推薦した。孫叔敖の力によって、荘王はやがて覇者となるのであるが、そのことには樊姫も大きな力を尽くしたのである。
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漢・劉向「新序」雑事第一より。女性活躍ですね。すばらしい。しかし半数以上にしないといけません。できるかな?