一足両襪(一足に両襪す)(「不下帯編」)
明日の朝は平日、出勤しなければなりませんが、朝になって「あれ、靴下が片っぽしか無いぞ、ど、ど、どうしよう!」と大騒ぎしてはいけません。

靴下に穴が開いたり裂けてたりしても大丈夫だ。たまごでも少々の穴なら生きているのだ。知らんけど。
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夫士観器量局度、一渉浅溢迫促、則必不足以顕功名。
それ、士の器量・局度を観るに、一に浅溢し迫促さるに渉れば、すなわち必ず以て功名を顕らかにするに足らざらん。
さてさて、その人の人間としての器の大きさ、才能の分量を見た時、底が浅くてすぐ溢れ出てしまったり、何かに迫られて判断力を失うようでは、絶対に後に名を上げることはできないであろう。
明の永楽帝が反乱を起こす前、北京の秦王であったころ、
与黄憲同臥起、王失其一襪、欲笞左右。
黄憲と臥起を同じうするに、王その一襪を失い、左右を笞うたんと欲す。
参謀の黄憲と一緒に寝起きしていた時、起きて靴下を穿こうと思ったら、秦王の靴下が片っ方しかない。
「どこにやった!」
とお怒りになって、近臣たちを笞うとうとされた。
黄憲から、
「何処にも失われていません。必ずそこにあるはずです」
と言われて、
索之、二襪貫於一足。
これを索むるに、二襪、一足を貫けり。
落ちついて探してみたところ、一方の足に二枚とも穿いていたのであった。
秦王、黄憲に向かって笑って言った、
「なるほど、まずは自分の足元を確認しろ、ということじゃな」
「御意」
蓋、秦王延士以謀備胡。故如此其急也。
けだし、秦王、士を延(ひ)いて以て胡に備うるを謀る。故にかくの如く其れ急なり。
当時、秦王は有望な人物を集めて、真剣に対モンゴル作戦を考えていたので、一方の足に二枚とも穿いてしまったのである。
だが、そこから一つの教訓を得たのは、やはり彼の器量というものであろう。
ところで、この間(清の時代です)ある人が、
聞己中雋、狂喜失措、不覚一足貫両襪、識者軽之。
己の中雋(ちゅうしゅん)するを聞き、狂喜して措を失い、覚えず一足に両襪を貫き、識者これを軽んず。
自分が科挙試験に合格したという報せを聞いて、狂喜して振る舞いを間違ってしまい、気づかずに一方の足に二枚の靴下を穿いて人前に出てきたというので、長老たちは彼を軽蔑したということである。
以一雋為喜而浅溢迫促如此、其器量局度尚堪問乎。
一雋を以て喜びを為して、浅溢し迫促さるることかくの如ければ、その器量・局度なお問うに堪えんや。
試験に受かったぐらいで大喜びして、底が浅くてすぐ溢れ出てしまい、迫られて判断力を失ってしまったのである。これでは、その人の器の大きさ、才能の分量など訊ねてみる必要もないであろう。
結局、
後其人竟以事被褫而卒。
後にその人、ついに事を以て褫せられて卒せり。
その後、その人は、最終的に事件を起こして官職を奪われて、死んだ。
ということである。
升不受斗、共傾覆也。
升は斗を受けず、共に傾覆せん。
一升(清の時代は1リットル強)の枡で一斗(清代は10リットル強)のものを受けることはできない。もしそんなことをしたら、すべて覆ってしまうだろう。
とは、まことなるかな。
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清・金埴「不下帯編」巻六より。新成人のみなさんも、靴下が片っぽ無くても焦ってはいけません。まわりをムチで打ったりしたら、エラくなれませんぞ。
能登は自衛隊がリュックを背負って避難所に行ってくれているみたいですが、行方不明者が増えました。まだ被害の全容が見えていないみたいです。