1月25日 少々のトラブルぐらい気にするな

権臣在内(権臣内に在り)(「智嚢」)

賢いひとたちが本社にいて指導してくれるから、わしらは何も考えなくていいのじゃ。

「トラブル」程度のことなら占いで決めれば大丈夫!

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天眷元年(1138。南宋の紹興八年)、南宋の韓世忠、岳飛らの軍が河南・開封の東南、水陸の要衝・朱仙鎮に攻め寄せた。対する金軍を率いるのは、太祖・完顔阿骨打の四男、時の金帝・熙宗の叔父に当たる名将・完顔兀述(わんやん・うじゅ)でありました。

ばん、ばん。(←肝冷庵が興奮して拍子木を叩く音)

初戦において岳飛との遭遇戦に敗れた兀述は、

欲棄卞而去。

「卞」は河南・開封のこと。北宋の首都であった。

撤退の指示をしている時、

有書生叩馬曰、太子毋走。

兀述、一瞥して言う、

「南宋軍に包囲される前に一度兵を退く。兵道の常識だ。なによりこの城、どんな輩が潜んでいるやもしれぬ・・・」

書生は首を振って、言った、

岳少保且退。

「たわけ!!!」

兀述は一喝した。

岳少保以五百騎破吾十万、京城日夜望其来、何謂可守。

「それがことでござる。わたしども、歴史書を読むのが商売でして」

書生はにやりと笑って、言った、

自古未有権臣在内、而大将能立功于外者。岳少保且不免。況成功乎。

「・・・!」

兀述悟、遂留。

この直後、開封まで占領した際に和平が困難になること(と、前線の将官の権力が強くなりすぎること)を恐れた宰相・秦檜の画策で、南宋・高宗皇帝は全軍に前進を止めるように命じ、岳飛、帝命もだしがたく、開封の町を目の前にして、

十年之力、廃于一旦。

と叫んで軍を収めたのでありました。ばん、ばん。

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明・馮夢龍編「智嚢」明智部知微巻五より。「知恵のふくろ」(智嚢)のうち、「するどい知恵(明智)で微かなことから予想した(知微)」の話を集めた巻です。「微かなことから予想した」主役は、馬を叩いた書生、という設定のようです。緊迫した場面、(書生以外は)登場人物がみんな大河ドラマ主役級で、しかも短編なので、読んでる人はおもしろいのですが、実際には、この朱仙鎮の戦いでは、岳飛・韓世忠の軍と完顔兀述の軍は接敵しておらず、互いに真夏の開戦を避けて対峙中に、どちらも和平派が政権を掌握して和平に至ったものですから、↑のような状況にはなっていないはず。

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