叩之空空(これを叩けば空空)(「酉陽雑俎」)
やっぱりそうだったのだ。頭のからっぽな音がする。

誰も知らないおれたちの国があるんでモグ。
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唐の開成年間(836~840)の末ごろ、長安の街中で、
永興坊百姓王乙掘井、過常井一丈余無水。
永興坊百姓・王乙井を掘るに、常井を過ぎること一丈余なるに水無し。
永興坊(という町の)人民・王乙が職人を雇って井戸を掘っていた。すでに一般の井戸より数メートルは深く掘ったのに、水が出て来ない。
「変だなあ」
と、誰でも思うと思うのですが、それだけではなかった。
忽聴向下有人語及鶏声、甚喧鬧、近如隔壁。井匠懼不敢掘。
忽ち向下に人語及び鶏声、甚だ喧鬧、近きこと壁を隔つるが如きもの有るを聴く。井匠懼れて敢えて掘らず。
突然、下の方から、人の声、ニワトリの鳴き声が聞こえてきた。たいへんうるさく騒がしく、壁一枚を隔てているかのように近いところから聞こえてくるのである。井戸掘り職人はびっくりして、それ以上掘るのを拒否した。
「絶対変だ」
というので、
街司申金吾韋処仁将軍。
街司、金吾・韋処仁将軍に申す。
町名主は、守備隊の韋処仁将軍に報告した。
「それを報告して、おれに何か得することがあるのなあ」
韋、以事渉怪異、不復奏、遽令塞之。
韋、事の怪異に渉るを以て、また奏せず、遽やかにこれを塞がしむ。
怜悧な韋将軍は、どうも不思議の事象に関わりそうで、(自分の立場がどうなるか予測できないことから)上司には報告せず、すぐにその穴を埋めさせてしまった。
このため、この穴の底がどこにつながっていたのか、永遠に謎となってしまったのである。
残念なことだ。
按ずるに、
新莽求周秦故事、謁者閣上得驪山本。
新の莽、周・秦の故事を求むるに、謁者閣上に驪山の本を得しことあり。
新の王莽(在位9~23)の時、長安西郊に都した西周と秦のころの遺跡を調べようとしたことがあり、担当者は(地下に横道を掘って行ったところ)掘削の先に始皇帝を葬った驪山(りざん)の「基盤」を発見したことがあった。
驪山の始皇帝陵建設は、
李斯領徒七十二万人作陵、鑿之以緯程三十七里、固地中水泉。
李斯の、徒七十二万人を領して陵を作り、これを鑿つこと緯程を以て三十七里、地中の水泉を固くす。
秦の丞相・李斯が七十二万人の労働者を率いて造ったのだが、その地下を南北方向に14~15キロ(一里≒400メートル)も穴を掘り進んだところ、地中から水が出ている場所があって、地盤が固かった。
李斯は皇帝に報告した。
已深已極、鑿之不入、焼之不焼、叩之空空、如存天状。
すでに深く、すでに極む、これを鑿つも入らず、これを焼くも焼けず、これを叩けば空空、天の存するが如き状なり。
―――すでに深く掘って、そろそろ極限です。これ以上は穴を開けようとしても開けませんし、薬品で岩を溶かそうとしても溶けない。地面を叩くとコンコンと中空らしい音がしております。この下には空があるのでは・・・。
と。
抑知厚地之下、別有天地也。
そもそも知るや、厚地の下に別に天地有りとは。
さてさてご存じでしたか、厚い大地の下に、もうひとつの世界があろうとは。
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唐・段成式「酉陽雑俎」巻十五より。わたしも以前から気づいていたんですが、やはり本当に地底に人間的なものが住む世界があるのです。誰も知らないその世界に行ければ、コルテスやディアスみたいにぼろ儲けできるかも。おっと、みなさんに知られると「山分けだぜ」と言われるとまずいから、自分一人で行こうっと。うっしっし。
(しばらく行方がわからなくなる?)